東京と千葉を結ぶ大動脈、JR総武線。小岩、本八幡、下総中山、西船橋、そして船橋——。ガード下には赤提灯が灯り、せんべろ居酒屋やスナックがひしめくこの街に、近年急速に発達した新たなコミュニティが存在した。LINEオープンチャット(以下、オプチャ)である。
見知らぬ呑兵衛たちが「今夜飲める人!」「西船でKP(乾杯)!」と呼びかけ合い、夜な夜な杯を交わす。一見すると現代の都会における人情酒場のようなこの場所に、突如として「血の粛清」と「分派独立」の嵐が吹き荒れることになるとは、誰が予想しただろうか。
これは、2026年晩夏、総武線沿線の飲み系オプチャを舞台に繰り広げられた、メンヘラ管理人と客引きヤンキーの全面戦争、そしてその狭間を飄々と生き抜いた「ある呑兵衛(そんし)」の完全犯罪の記録である。
すべての悲劇の引き金は、2026年8月29日(土)の夜に引かれた。
総武線オプチャの管理人・師匠は、この日30人規模の船橋定例飲み会を主催していた。体調不良で頭痛薬を飲みながらも、「自分が欠席すると飲み会が流れてしまう」と無理を押して参加した師匠。二次会の後、師匠は良かれと思って三次会の会場として大衆酒場「マルヤス」を予約し、メンバーを誘導しようとした。
だが、現場の酒飲みたちは、管理人の敷いたレールには乗らなかった。
「マルヤスなんか行かねぇよ! 歩乃歌(ほのか)行こうぜ、ほのか!」
TERUを中心とする現場派の主力メンバーたちが、師匠の予約を完全にすっぽかし、馴染みの店「歩乃歌」へと大挙して雪崩れ込んだのである。
取り残され、大勢の前で赤っ恥をかかされた師匠。頭痛薬も切れ、悪態をつかれ、メンツを粉々に粉砕された師匠は深夜、一人寂しく帰宅の途についた。そして日付が変わった8月30日午前0時過ぎ、憤怒のあまりLINEオプチャの「退会」ボタンを押し、自ら姿を消した。
世に言う「師匠のセルフぽあ(自発的退会)事件」である。
8月31日夕方、師匠はオプチャに何食わぬ顔で復帰した。しかし、メンツを潰された独裁者が復讐を忘れるはずがなかった。
8月29日の混乱の責任を問われ、現場を煽って歩乃歌へ連れ去った主犯格として、TERUとぷっぷがオプチャから追放(強制退会)処分となった。
だが、TERUとぷっぷはタダでは起きなかった。「あんな堅苦しいオプチャ、こっちから願い下げだ!」とばかりに、追放からわずか2日後の9月2日、新オプチャ「新・船橋発🍻居酒屋🏮カラオケ🎤楽しく飲み会」を電撃旗揚げしたのである。
迎えた9月4日(金)夜。西船橋に集結したメンバー(TERU、まゆゆ、🖍️しんちゃん、光輝、ちぃー、オラフら)は、一次会から大盛り上がり。22時からの二次会「ぜっこうちょう」には、ぷっぷから誘われたそんし(卓球帰り)とみすずが合流。そのまま三次会のカラオケになだれ込み、朝5時過ぎまで呑み明かした。
新・船橋陣営が朝までKPと叫んでいたその裏で、師匠は先週の「マルヤスすっぽかし」の傷が癒えず、深夜1時半に暗闇から長文のお説教を投稿していた。この対比こそが、この界隈の縮図であった。
新・船橋オプチャの旗揚げと大盛況に、師匠の怒りは沸点を突破した。9月5日午前11時04分、師匠は全体チャットに戦慄の告発文を投下した。
あまりの狂乱ぶりに周囲が凍りつき、師匠は投稿を慌てて送信取り消しした。しかし、そこに書かれていた内容は単なる言いがかりではなかった。
TERUには「本八幡のスナック・シリウス」への客引きという営業目的が確かに存在していた。 実際に「勝手にドリンクを付けられた」「高額請求された」という被害報告が師匠の元に寄せられていたのである。
だが、TERUの反撃もまた苛烈を極めた。キックされたTERUは師匠の個人LINEに、一線を越えた報復メッセージを連投していたのだ。
「客引きヤンキー」 vs 「女性漁り疑惑のメンヘラ教祖」。
大義名分を掲げた戦争の裏で、互いのドロドロとした急所を抉り合う、救いようのない泥試合が繰り広げられていた。
新・船橋の飲み会が師匠に筒抜けになっていたことで、新オプチャ側では「誰がスパイだ!?」という猛烈な人狼ゲーム(犯人探し)が勃発した。
その日の夜、激震が走る。師匠から「可愛いちぃーちゃん」と最も寵愛されていたはずのちぃーが、総武線オプチャから非情にも強制退会(キック)されたのだ。ちぃーはスパイどころか、「TERUのオプチャに行った」というだけで師匠から裏切り者認定され、真っ先に粛清された最大の被害者であった。
では、真の密告者は一体誰なのか? ここで幹事・ぷっぷの推理力が神がかり的な冴えを見せる。
【名探偵ぷっぷの推理】
「TERUさんは本人に聞くとは言ってるけど、聞かなくてもわかるよ!
総武線と同じ名前のまま新オプチャに入ったメンバーは、ちぃ、光輝、みすず、そんし、そしてスバルの5人だけ。
なのに、師匠が名指しで攻撃したり『辞めろ』と迫ったのは、ちぃ、光輝、みすず、そんしの4人だけ。
なぜかスバルの名前だけが一切挙がっていない!
それに、スバルだけがうちらの新オプチャの飲み連絡にいっさい返信をしていない!」
これぞ決定打であった。同じように名前を変えずに入っていたのに、なぜかスバルだけが師匠のお咎めを1ミリも受けていない。それは即ち、スバル自身が師匠への情報提供者(チクリ役)だったからに他ならなかった。
新オプチャの飲み会連絡を完全無視して名簿だけを把握し、裏で師匠に耳打ちしていたコウモリの急所を、ぷっぷは完璧に看破したのである。TERUによる直接対決のゴングが鳴ろうとしていた。
ちぃーが粛清されたその裏で、師匠の魔の手はそんし(ジニー)の元にも伸びていた。
この瞬間、歴史が動いた。
そんしは、怯える女性陣(ぷっぷやちぃー)を一切売らず、すでに師匠と全面戦争状態にある「TERU」の名前だけを差し出した。すると師匠の脳内で、先週のトラウマ店「歩乃歌」と結びつき、「TERUが歩乃歌の下で暗闇から待ち伏せしてジニーさんを闇討ち勧誘した」というハリウッド映画ばりの妄想が勝手に完成したのである。
「ジニーさん惚れました、絆です」。
狂乱の独裁者を完全に手玉に取り、そんしは師匠にとって「絶対不可侵の筆頭家老」のポジションを不動のものとした。
9月5日夜、師匠は総武線オプチャに「飲み会禁止令(戒厳令)」を敷いた。オプチャは静まり返り、恐怖と疑心暗鬼が支配する北朝鮮のような空間へと成り下がった。
一方で、追放されたちぃーを迎え入れた新・船橋発オプチャは、「師匠の横暴から逃れた自由の闘士たち」として連帯感を強め、次なる酒宴への熱気を帯びている。
そして、稀代の軍師・そんしは呟く。
「ワシは、卓球やピアノ会などさまざまなコミュをみてきて、主催者は基本不要と感じておる。ただのコンテキストをLINEOCなどでつくったにすぎん。」
オプチャを自分の所有物と錯覚し、神になろうとした主催者は自滅した。酒飲みの場とは、ただの「器(コンテキスト)」にすぎない。器さえあれば、人は勝手に集まり、勝手にKPし、朝まで笑い合って生きていくのだ。
そんしは近々、名前とアイコンを変えて、新・船橋オプチャへと静かに再潜入(ステルスリターン)する予定である。もちろん、語尾の「〜のじゃ」だけは絶対に封印して。
(完)